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美百合を抱いて風呂場まで連れて行き、全身を綺麗に洗ってやった。
最初は薬効からか疲労からか、ぐったりと龍一に身を任せていた美百合だが、熱いシャワーで身体を叩いてやると、次第に意識を取り戻していくようだ。
ぼんやりとして視線のあわなかった瞳に、いつもの光が戻ってくる。
「……龍一?」
催淫剤に酔った甘えた声ではなく、自分の今いる場所がわからないといった風な、不安気な声で聞いてくる。
龍一はその声に応える。
「大丈夫だ。もう全部、終わったから」
美百合は、ゆっくりと記憶を反芻するように視線をめぐらし、次の瞬間には、
――ボッと赤面した。
やはり都合よく、忘れてしまえるわけではないようだ。
とたんに美百合はジタバタと暴れだす。
もう何度も見せたはずの自分の裸体を、その小さな両手で隠しながら、龍一の腕の中から逃げ出そうとする。
「ばか、暴れるな。滑って転ぶぞ」
ここは風呂場だ。
しかも辺りはボディソープの泡でよく滑る。
転んで怪我でもしたら大変だ。
だが美百合は目に涙まで滲ませて、
「お願い、放して放して」
と逃げ出そうとする。
「恥ずかしい。もう死んじゃいたい」
いま美百合を逃がしたら、何を仕出かすか判らない。
感情が爆発したら、もうどうにも止められない性格なのだ。
龍一はその腕の中にしっかりと美百合を抱きとめ、
「何が恥ずかしいんだ?」
と聞く。
美百合は龍一の逞しい胸板をポコポコと叩いて暴れながら、
「だって、だって私、あんな、あんな……」
口に出すのも恥ずかしいと、美百合は龍一の腕の中で身悶えする。
そんな様子の美百合に、龍一は無理やり自分の唇の端をあげて笑って見せながら、わざと意地悪い声で告げてやる。
「なんだよ。お漏らしのことか?」
さっき赤面したばかりなのに、美百合の全身はこれ以上赤くなれない限界まで真っ赤に染まる。
恥ずかしさのためか、それとも怒りのためなのか。
どちらにしろ、龍一に美百合を逃がすつもりはない。
ボディソープにまみれた美百合の身体に、やさしく手のひらを這わせながら、
「安心しろ。これからもっと恥ずかしい目にあわせてやる」
美百合の辛い記憶は、すべて、自分の記憶だけで上書きするつもりだ。
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