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最近、龍一の様子が変だ。
まず大切なハウスの中のイチゴを、全部根っこから引っこ抜いて、どこかへ持っていってしまった。
「失敗した。あれは全部ダメだ」
龍一は忌々しげに言うけれど、イチゴは株ごと処分してしまったら、来年また親苗から購入しなければならない。
ちゃんと探せば無事な苗もあったはずなのに、そんなに大雑把じゃファーマーとしては失格よ、と美百合は立腹している。
それから自宅とハウスの両方に、最新のセキュリティシステムを導入した。
昼間は玄関に鍵などかけない、この田舎ならではの長閑な風習を、龍一は以前から好きではないようだったが、
『網膜認証』しなければ開かないドアなんて、少し大げさすぎると美百合は思う。
最初見た時は驚いて呆然としたが、龍一は、
「前に勤めていたところから支給されたんだ」
と言う。
無料の支給品なら、文句の二割は引っ込んでしまう。
それに一応は『美百合園』の代表取締役である美百合の父親が、この独善独行型の販売促進係の所業に何も言わないのだ。
男どもがこっそりヒソヒソと何事かを企む様子に、美百合はひとり疎外感を感じて怒りまくっていた。
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