エピローグ レッドパール

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「ねえ、ふたりして、今度はいったい何を企んでいるの!」 冬春イチゴ用のハウスの準備をしている龍一と父親に向かって、美百合はついに怒鳴り声をあげた。 なぜならふたりは、ハウスに新しく対人感知システムを取り付ける相談をしているのだ。 いくら最近、世の中が物騒になったからと言って、 『侵入しようとする人間を確認次第、レーザー切断機が照準を合わせる』 だなんて話が聞こえてきたら、泥棒よりふたりの方が物騒思考に思えて仕方がない。 「おかしな心配するな。冗談だよ」 龍一は言うが、冗談に聞こえないから怖いのだ。 証拠に父親の額には変なあぶら汗が浮いている。 ……龍一なら、どんな物騒なことでもやりかねない。 「ちゃんと話して龍一! 一体なにを考えてこんなことを始めたの」 美百合の怒りの矛先が、龍一に固定されたことを幸い、父親は足早にハウスの中から逃げ出していった。 龍一は仕方がないと諦めた様子で、美百合に身体ごと向き直ってくれる。 「……」 すんなりとした絵画のような立ち姿。 龍一の姿態はウサゴンのエプロンをつけていてなお、損なわれることはない。  ――完璧な美しさを誇っている。 美百合はまっすぐにその美しい龍一を見つめて、ずっと不安に思っていたことを唇に乗せる。 「……また、どこかに行っちゃうの?」 龍一がどうしても断れない仕事で家を空ける時、残される美百合たちの安否に、ものすごく気を配っていることには気が付いていた。 それがこんなにも警戒を厳重にしているのだから、今度はもしかして長期間、 龍一は家を空けようとしているのかもしれない。 そんな予感が美百合を不安にさせる。 龍一のかつての仕事の重要さは判っている。 また龍一の有能さも、しつこくかかってくる『元』上司からの電話でうかがい知れる。 だけど、 また離れ離れに暮らして、会えない日々を過ごすだなんて―― 美百合には震えあがるほど恐ろしい予感だ。 だが龍一は、その美しい顔を辛そうに歪めて、黙っている。
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