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もうひとつ、考えたくもない可能性だってある。
浩輔の葬儀の時、龍一は美百合の背筋をも凍らせるほど、怖い目をしていた。
美百合が何故か心神喪失に陥ってしまったあの日のことを、龍一は、
「お前は病気だったんだ。熱もあった。もう忘れろ」
と言うが、美百合の中にはけっして忘れられない記憶が残っている。
龍一に向けて、自分が放った言葉、
「浩ちゃんのとこ行く。浩ちゃんに抱っこしてもらう!」
何故あんなことを口走ったのか、自分でも判らないし、
今だって美百合が龍一に寄せる想いには、一点の曇りもない。
龍一のことが大好きだ。
だけど、口から一度出てしまった言葉は、もう引っ込みがつかない。
取り消すことは出来ない。
あれで、龍一に嫌われたのだろうか。
龍一の愛情が無くなってしまったのだろうか。
なんて浮気な女だと思われて、もう気持ちを失ってしまったのだろうか。
龍一はイジワルだけれど本当はやさしい人だから……。
美百合の前から姿を消す前に、美百合の安全だけは、守っていこうとしてくれているのかもしれない。
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