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この村の独身の男どもは、そろいも揃って、龍一の恋人である美百合を、馴れ馴れしくも下の名前で呼ぶ。
龍一のこれまでの仕事のせいで、美百合とは4年もの間、音信不通の、ただ待たせるだけの期間を過ごした。
そんな日々のことを美百合は、
「みんなが親切にしてくれたから、あんまり寂しくなかったよ」
と笑って言うが、その微笑みの奥には悲しみの影が見える。
そんな笑顔を見ると、堪らないほど愛おしい想いが湧きあがってくる。
こんな美百合の周りをうろちょろする男どもの、親切面の裏側に、
『さて一体どんな下心があったのやら』
想像するだけで、龍一は自分の中に湧き上がる破壊衝動を抑えるのにひと苦労だ。
今、肘を止めたのだって、心底ヤツらに感謝しているらしい、美百合の言葉に敬意を表してのことだ。
そしてもう一点、
『なぜ玄関に鍵をかけておかない?』
龍一は気に入らない。
昼の間は玄関の鍵は開けっ放し、というのがこの村の風習らしいのだが、それは龍一と離れて暮らしていた期間もずっとそうで、
「もし煩悩にまみれた男どもに室内に踏み込まれ、襲われでもしたらどうするつもりだったんだ」
龍一は思わず声を荒げた。
しかし美百合は、
「やあだ、パパもいるのに大丈夫よ。それにみんな親切だし。龍一ってば考えすぎ」
と取り合わない。
目の前の浩輔の、この不愉快なスケベ面を見ていてなお、美百合はなぜそんなに無邪気でいられるのだ?
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