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「それで、ウチに何かご用が?」
龍一がもう一度問うと、浩輔も負けるかと向き直り龍一を睨みつけてきた。
この男がこっそり美百合に想いを寄せていることぐらい、龍一はとっくに気が付いている。
今も何だかんだと理由をつけては、美百合に近づこうとするのが、なおます気にいらない。
今日も、
「美百合ちゃんがこの前、今年の夏イチゴの出来が良くないって心配してたから、新しい出荷先を紹介しに来たんだよ。
たとえ初心者が作った失敗作でも、新商品の開発実験に使うから、味は問わずに量を買い取るって好条件を出してきたからさ」
龍一がイチゴ栽培の初心者だと侮っている浩輔は、自分の土俵で龍一をねじ伏せようとする。
どうやら、龍一にライバル心を抱いているようだ。
しかし龍一は、その瞬間にふっと顔に微笑みを浮かべた。
龍一が浮かべる悪魔の微笑みは、たとえ敵でも魅了してしまうほどに美しい。
当然これにも自覚がある。
これまでだって何人もの相手を、この笑顔で翻弄し惑わしてきた実績があるのだ。
「それはどうもご親切に――。浩輔さんの好意を美百合もきっと喜ぶと思います」
浩輔の頬に、さっと朱が走る。
それを内心ほくそ笑みながら確認して、
「後ほど詳しい話を聞きに伺いますが、今は急ぐのでこれで失礼します」
浩輔の背中を押して玄関から追い出した。
玄関のドアを閉めるとほどなく、二階からトントンと美百合が降りてくる。
「なあに龍一? 誰か来たの?」
龍一が美百合の気配を察して浩輔を帰したことは、龍一以外は誰も気がついていない。
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