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さてどうやって美百合と関わらせずに、浩輔を巻き込んでやろうかと、いく通りかのミッションを頭に思い浮かべていると、
「イチゴを見ながらため息ですか? ちょっと色っぽいんですけど?」
遮光ネットを張ったハウスの入り口で、美百合が小首を傾けていた。
彼女がずっと、龍一を覗き見ていることには気がついている。
だが、意味不明の美百合の行動には、けっして口出ししないと決めているだけだ。
なにかの弾みで美百合の機嫌を損ねてしまうと、後でとんでもなく面倒なことになる。
「ちょっとイチゴに妬けちゃうなあ」
案の定、龍一にはまったく理解できない理由で、美百合の機嫌はすでに悪いようだ。
美百合は龍一の側まで歩いてくると、龍一の胸板を乱暴に突く。
「イチゴばっかり、ずるいよ……」
『どういう理屈だよ』
と呆れるが、こんな時の美百合は、きまって龍一の吐く甘いセリフを求めている。
だが、
「イチゴより、お前の方がよっぽど手がかかる」
そう簡単にいくか、とイジワルを言ってやれば、思ったとおり、美百合は瞬間にブッと膨れた。
想像した通りのブサ顔に、思わず噴き出しそうになるのを喉の奥で堪えながら、
「でもまぁ、お前の方がずっと可愛いから仕方がない。それに……」
魅惑の微笑みを浮かべて、
「美味いしな」
と言ってやると、美百合はその大福のように膨れた頬を、一気に紅白まんじゅうのように変える。
赤くなったのをごまかすように、ドン、と勢いよく、龍一の腕の中に飛び込んできた。
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