1 ベルルージュ

5/6

110人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
さてどうやって美百合と関わらせずに、浩輔を巻き込んでやろうかと、いく通りかのミッションを頭に思い浮かべていると、 「イチゴを見ながらため息ですか? ちょっと色っぽいんですけど?」 遮光ネットを張ったハウスの入り口で、美百合が小首を傾けていた。 彼女がずっと、龍一を覗き見ていることには気がついている。 だが、意味不明の美百合の行動には、けっして口出ししないと決めているだけだ。 なにかの弾みで美百合の機嫌を損ねてしまうと、後でとんでもなく面倒なことになる。 「ちょっとイチゴに妬けちゃうなあ」 案の定、龍一にはまったく理解できない理由で、美百合の機嫌はすでに悪いようだ。 美百合は龍一の側まで歩いてくると、龍一の胸板を乱暴に突く。 「イチゴばっかり、ずるいよ……」 『どういう理屈だよ』 と呆れるが、こんな時の美百合は、きまって龍一の吐く甘いセリフを求めている。 だが、 「イチゴより、お前の方がよっぽど手がかかる」 そう簡単にいくか、とイジワルを言ってやれば、思ったとおり、美百合は瞬間にブッと膨れた。 想像した通りのブサ顔に、思わず噴き出しそうになるのを喉の奥で堪えながら、 「でもまぁ、お前の方がずっと可愛いから仕方がない。それに……」 魅惑の微笑みを浮かべて、 「美味(うま)いしな」 と言ってやると、美百合はその大福のように膨れた頬を、一気に紅白まんじゅうのように変える。 赤くなったのをごまかすように、ドン、と勢いよく、龍一の腕の中に飛び込んできた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加