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「千秋の初めて出した本は、俺が、無理言って、高見沢に表紙を描いてもらったんです。それが、評判よくてね。あれ以来、ずっと、千秋の本は、高見沢に描いてもらってるんです。
そのせいで、あいつは、会社を辞める羽目になったんですけどね…それがよかったのか、悪かったのかは、俺には、答えられません。
ただ、あの後、高見沢は、すごくスッキリした顔してたから、彼なりに、けじめは着いてたんでしょうね。
そういえば、高見沢の絵は見たことありますか?」
「本になってるのは、いくつか。」
「いい絵ですよ、あいつの描くものは。誰もが、彼の描くものに、魅了される。」
彰は、そう言った後、にっこり笑った。
「生きてくためには、仕事して、金を稼がなくちゃならない。その点では、十分なことやれてるでしょうね。
好きなことして、金が稼げるなんて、良い生き方ですよ。
でも、穂香さんのことがあってから、彼は、恋愛には、臆病になってるんです。失う怖さを知ってしまったから…。」
「わかります、今なら、その気持ち…。でも、あの頃の私は、表面でしかわかってなくて…。本当の意味で、圭吾の力になってあげることも、支えてあげることも、出来なかった。」
「祥子さん、今のあなたなら、高見沢の痛みがわかるでしょう。側で、支えることも、力を与えることも出来る。時を経た、今だからですよ。
あなたが、高見沢を、求めてくれたように、高見沢も、あなたを求めてる。けれど、最後の最後で、足踏みしてるんです。
俺達が、ほんのちょっとだけ、背中を押しますから、受け止めてやってくれませんか?」
「はい。全力で。」
「よし、俺の仕事は、ここまで!
祥子さん、さっきの質問だけど、あいつが、幸せだったかどうかは、やっぱり、本人に聞いてください。俺が、答えることじゃありませんよ。」
「そうですね、彼に聞きます。」
祥子は、彰に軽く頭を下げると、圭吾を探して、輪の中に入っていった。
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