誕生花

10/10
前へ
/226ページ
次へ
彩華は、少し考えた後、遠慮しながらだが、高見沢と穂香の話を、奏多にした。 「そうか…高見沢さんも、色々苦労しているんだね。 そりゃ、俺と高見沢さんの苦労を、比べることなんて出来ないし、比べる対象が、違いすぎるから、結論を出すことも出来ないよ。 ただ、俺は、失うことの辛さは、わかるつもりだよ。 もう、手に入らない、二度と掴めないって、頭でわかっていてもね、感情は別物。そう簡単に、割りきれないんだよ。 特にさ、人生に関わることはね。」 一度は、もう動かないと、医師に宣告され、何年もかけて、やっと元通りに近い状態に戻った右手をさする奏多を見て、彩華は、そっと両手で、奏多の右手を包み込み、優しく頬擦りをした。 「そうよね、気持ちが理性で、なんでも割り切れるなら、奏多、あんなに苦しまなかったもんね。」 「俺には、彩華がいてくれたから、立ち直れたんだよ。 でも、高見沢さんは、俺みたいに簡単には、いかないよね…。 努力してどうこう出来るものでもないし、手の中に取り戻せないものは、世の中には、沢山あるよね。」 「そうだね、取り戻せない物を、追い続けて、何が残るのかな…。 誰か、本当にいい人いないかな。…でも、叔父様を全部、包み込めるような素敵な女性、そう簡単には、見付からないか。難しいね。人生って。」 「そうだね。そういう意味では、俺は、凄くラッキーだったってことだよな。」 「うふっ。そうだね、私達は、凄くラッキーだったんだよ。」 彩華は、やっといつもの笑顔を取り戻した。
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加