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彩華は、少し考えた後、遠慮しながらだが、高見沢と穂香の話を、奏多にした。
「そうか…高見沢さんも、色々苦労しているんだね。
そりゃ、俺と高見沢さんの苦労を、比べることなんて出来ないし、比べる対象が、違いすぎるから、結論を出すことも出来ないよ。
ただ、俺は、失うことの辛さは、わかるつもりだよ。
もう、手に入らない、二度と掴めないって、頭でわかっていてもね、感情は別物。そう簡単に、割りきれないんだよ。
特にさ、人生に関わることはね。」
一度は、もう動かないと、医師に宣告され、何年もかけて、やっと元通りに近い状態に戻った右手をさする奏多を見て、彩華は、そっと両手で、奏多の右手を包み込み、優しく頬擦りをした。
「そうよね、気持ちが理性で、なんでも割り切れるなら、奏多、あんなに苦しまなかったもんね。」
「俺には、彩華がいてくれたから、立ち直れたんだよ。
でも、高見沢さんは、俺みたいに簡単には、いかないよね…。
努力してどうこう出来るものでもないし、手の中に取り戻せないものは、世の中には、沢山あるよね。」
「そうだね、取り戻せない物を、追い続けて、何が残るのかな…。
誰か、本当にいい人いないかな。…でも、叔父様を全部、包み込めるような素敵な女性、そう簡単には、見付からないか。難しいね。人生って。」
「そうだね。そういう意味では、俺は、凄くラッキーだったってことだよな。」
「うふっ。そうだね、私達は、凄くラッキーだったんだよ。」
彩華は、やっといつもの笑顔を取り戻した。
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