圭吾と彰

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彰の予想通り、圭吾は、2日後に、速水家へやってきた。 圭吾が、事務所を覗くと、海斗が一人きりで、なにか作業をしていた。 「よお、海斗、一人か?速水は?」 「速水の叔父さんなら、温室ですよ。」 「温室?…ああ、ライブラリーの奥にあるあれか。ちょっと覗いてくるよ。また、後でな。」 圭吾は、事務所を出て、隣のライブラリーを回り込むと、薔薇の植え込みの向こうに温室がある。 扉が、開いていたから、覗いて声を掛けた。 「速水!高見沢だけど、そこにいるのか?」 「…おう…中にいるから、はいってこいよ。」 圭吾は、彰の声のした方へ、歩いていくと、薔薇の花に囲まれて、苗木の手入れをしている彰がいた。 「もしかして、お前が、世話してんのか?」 「もしかしなくても、俺が、世話して育ててるんだが、なんか文句あるのか?」 「あるわけないだろう。しかし、凄い数の薔薇だな。」 「これでも少ないと思ってるんだがな。」 「少ない!?…これでか?」 「元々、この屋敷にあった温室は、この倍はあったからな。最終的には、それを越す温室にしたいんだ。」 「薔薇だけなのか、ここにあるのは。」 「そうだよ。薔薇だけだよ。」 「なんか薔薇に思い入れがあるのか?」 「あるが、お前に話すことじゃない。 ふむっ…そうだな、ひとつだけ教えてやるよ。 俺の母親は、薔薇が好きでな。薔薇を、この屋敷の中で、たくさん育てていたんだ。その話を聞いて、どんなだったか、見てみたかったって、千秋に言われたんだ。 千秋が、見たいって言って、俺が、再現したいと思った。まあ、それだけのことだ。」 「それだけね。…それだけで、ここまでやるのは、お前らしいよ、速水。」 彰は、作業を止めて、苗木を片付ける。手にはめていた手袋も外してしまった。 「打ち合わせに来てくれたんだろ。事務所で、やるぞ。」 「了解。」
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