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「…お前、彩華に昔のこと、話しただろう。」
「…穂香のことか?」
「ああ。お使いから帰った彩華と、ちょっとした話していて、昔のことや彼女のことを、お前から聞いたってわかった。
やっぱり、まだ、忘れてないんだな、彼女のこと…。」
「忘れられるわけないよ…穂香との約束だからな。
《私を忘れないで…》まるで、自分の未来を知っていたかのように、自分の誕生花の花言葉を教えるなんてな。
その上、あんな別れ方ないだろう…。」
少しばかり、気持ちが沈みこむ。
「なあ、高見沢。お前、子供のことを、彩華に、話さなかったんだな。てっきり、それも話したんだと思って、言っちまったぞ。聞いた後、彩華、かなりショック受けてたぞ。
まあ、そこまで自分の口で話したら、お前の方がまいっちまうか…。」
「そうだね…。」
そう答えてから、ひとつ大きく深呼吸する。
「俺は、あの時、一度に、二つの命を失ったんだよな。それが、もう、一生手に入らないんだって、わかってる。ないものねだりを、いつまでもしてたって、仕方ないんだって、わかってるよ。
でもな、割りきれない気持ちって、誰だってあると思うんだよ。
だから、あの日、あの花屋で、お前に会わなかったら、俺は、また深い闇に、落ちていたかもしれない…。
あの頃の俺は、本気で、死ぬこと考えてたからな。
あの勿忘草の鉢植えが…いや、穂香が、俺のために、お前を呼んでくれたのかも知れないって、最近思うんだ。
このタイミングで、また、穂香のことを、最初からきちんと思い出して、色々考える切っ掛けが出来たのは、彩華が、独り身の俺を本気で心配してくれてたから、なんだけどな。
お前と千秋さんがいなけりゃ、彩華には、今、会えてないんだから…。」
圭吾は、その時出来る一番良い笑顔をしてみせた。
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