圭吾と彰

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季節は巡り、社会人3年目の俺に、今年初めて後輩が出来た。内の部署には、去年、新人の配属がなかったからだ。 気の良いやつで、『先輩、先輩』って、付いて回るような奴だったから、俺も、そいつを可愛がった。 そんな中、彼が、大きなコンペで、最優秀をとって、デザイナーとしての大きな足跡を残した。その辺りから、社内でのいろんな関係性が崩れ始めた。 デザイナーは、山程いるが、仕事は限られている。誰にどの仕事をさせるかで、上が揉め始めたからだ。 次のプロジェクトに関わることになるのは、俺か後輩か…。 大きな賞ではないが、幾つものコンペで入賞しているし、この3年間、堅実な仕事の積み重ねをしてきた俺を推してくれる人達と、まだ未熟だが、将来性をかんがみて、新進気鋭の彼にも、経験を積ませるべきだと言う人達が、真っ向から睨み合うことになってしまった。 …そして、選ばれたのは、後輩だった。 最初は、初めての大きな仕事ということもあって、緊張から、神経性の胃炎になるほどだったのに、いつからだろうか、彼は、同僚達を、見下すような態度を取り始めた。 あちこちで、ちやほやされて、勘違いを起こしていたんだ、すべてに置いて、自分が一番なんだと。 まあ、そういうことは、どこの業界でも、企業でも、よくあることだ。 実力がものを言う世界なんだから、彼以上の仕事をすれば良いだけのこと、俺は、彼から、少し距離を置いて、自分に与えられた仕事をこなすだけに、意識を向けていた。 そんな中、4年目を迎えた。 人事異動にともなっての、歓送迎会での出来事だ。 例の後輩には、付き合って3年なる彼女がいたんだが、その子との結婚が決まったと、その場で、大々的に発表したんだ。めでたい話さ。みんなが、お祝いの言葉を掛けていた。 俺も、そうするつもりだったんだ。だけど、止めた。あいつの言葉に、傷付いたから…。 自分が幸せを掴んだのは、才能があるからだとか、将来を嘱望されてるからだとか、まあ、自慢みたいなことを言っていた。 あの時の彼なら、そう言ったとしても、不思議じゃない。実際、仕事の結果は、きちんと出していたんだから。 だけど、酒が入った彼は、俺を肴にして、言いたい放題やり始めた。 酒の上のことだと、流すつもりだったのに、出来なくなった。
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