圭吾と彰

9/34
前へ
/226ページ
次へ
「先輩、何で、彼女いないんすか? わかった!俺みたいな、甲斐性がないんだ。だから女の子も、寄ってこないんでしょ。」 「…彼女いないと、だめなのか?」 「そりゃそうでしょ。そして、男は、好きな女を守れて、一人前っすよ。 で、先輩は、好きな子いないんすか? それとも、甲斐性なしで、フラれたとか?」 バン! 持っていたグラスを、テーブルに、叩きつける勢いで置くと、叫んでいた。 「ああ、確かに、俺は、好きな女を守れなかったさ! あの時、何で、一緒にいなかったんだろうって、後悔したさ! だけど、誰が、わかるんだよ…。 好きな女が、この世から、いきなり居なくなるなんて…。 お前に何がわかる!俺の心の何がわかるんだよ!」 普段、怒鳴ったりしない俺が、これでもかって大声で、叫んだもんだから、みんな固まってた。 「…帰る。」 みんなをその場に残して、俺は、店を出た。 部屋に帰った俺は、家にある、ありったけの酒を浴びるように飲んだ。 次の日、俺は、社会人になって、初めて仕事をサボった。 昼過ぎ、お腹が減って来たから、買い物に、ぷらっと出掛けた。 俺は、何やってんだろうか…。 昼下がりの公園。誰もいない。 ベンチを見付けて座ると、コンビニで買ったサンドウィッチを袋から出して、食べた。 ぼおっと、缶コーヒー片手に、座っていた。 「はぁ…俺、大人げないよな…。」 俺は、幸せそうな後輩が羨ましかった。 幸せな顔をしてる後輩が妬ましかった。 どうして、俺には、あの幸せがないのかと、考えると、悲しくなったのと同時に、腕の中にいた穂香の感覚を、もう忘れかけていることに気付く…。 不意に、涙が溢れてくる…。 思い出さないようにしていたのにな…。 穂香に会いたい…。 会うためには、あの世へ行くしか手はないんだよな…。 いけないと思いながらも、後ろ向きな思いが、頭をもたげてくる。 その後、俺は、近くの踏み切りの前で、かなり長い間、立っていた。 何度も、電車に飛び込もうとしては、その度に、思い止まったらしくて、俺は、今もまだ、生きている。 その後、何で、そこへ足が向いたのかわからないが、花屋の前にいた。 俺の目の前には、薄い青の勿忘草が、そよ風に揺れていた。
/226ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加