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俺と後輩のやり取りを見ていたやつがいたらしくて、それ以来、俺の前で、大っぴらに恋の話をみんなしなくなった。
あからさまに、同情された方が、気が楽だけどな。俺的には、こっちの方が、きつい…。まあ、当事者じゃないやつらに、そんなのわかんないか…。
何もなかった。そう、前と何にも変わらない。今まで通りに、普通に…。
普通に…そう思う時点で、普通じゃないと、気付いてない。
あれから、毎日のように、会社帰り、あの花屋へ足を向けていた。そして、勿忘草の鉢植えを見るだけで、心が少しだけ、柔らかくなるのを感じていた。
ただ、毎日見ているとわかるんだ、一鉢、一鉢、数が少なくなっているのが。
そりゃそうだろう、あの勿忘草は、売り物なんだから…。
そして、最後の一鉢になったとき、俺は、買うか買わないか迷った。
迷いは、小さな時間のロスを生む。
決心して、手を伸ばしたとき、俺の手が、誰かの手とぶつかった。
「すいません!」
良く通る澄んだ声が、俺より先に、発せられた。
「…もしかして、これ、あなたも、買うつもりだったんですか?」
「ええ、まあ…。」
「それは困ったな…。この近くに、花屋、他にあったかな…。」
俺と、そう歳の変わらない感じの男性が、腕組みして考え込んでいた。
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