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「…さっきの家、表札に【佐伯潤】って書いてあったけど、もしかして、ベストセラー作家の?」
表札の名前の人のことを思い出した俺は、速水に聞いた。
「ああ、そうだよ。」
「君、何の仕事してるの?」
「俺か?…俺は、出版社で文芸の編集やってる。佐伯先生は、俺の同期の谷口の担当なんだけど、風邪で体調崩して、先週から休んでるんだ。まあ、明日から、出社予定なんだけどさ。」
「じゃあ、速水は、その間の代理なんだ。だけどさ…何で、あの鉢植えが、必要だったの?」
「佐伯先生のリクエスト。あの先生、思い立ったら、すぐなんだよね。何においても。今回は、資料用に、勿忘草を探してこいだったんだ。
勿忘草の入荷、もう終わりらしくてさ。どこの花屋も、もうなくてね。
あすこで、見つけて、ちょっとテンションあがってたんだ。
お前は、なんで、あれ買おうとしてたんだ?勿忘草なんて、あんまり、男が、買うような花じゃないじゃないか。」
「………。」
「あっ、なんか不味いこと聞いちゃったのかな。…ごめん。
俺さ、いろいろあって、世間をあんまり知らないんだよな…。だから、時々、考えなしに、人を傷付けちゃうんだ。
もし、話してて、気付いたら言ってくれよ。」
速水は、今まで会った誰とも違う、なんだか不思議な雰囲気を持った男だった。
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