圭吾と彰

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「なあ、子供の頃ってさ、なりたいもの一杯なかった? 俺はあったんだ。本当に、子供だからさ、たわいのないものだよ。だけど、大人になったら、きっと、その中のいくつかは、叶えられるって、信じて疑わなかった。 それがさ、ある日、突然、選択肢がたったひとつになった。 跡継ぎになるってことはさ、今まで持っていたすべてを捨てて、この先、自分の幸せよりも、関わるすべての企業や組織のトップとして、責任と義務を果たすことだけを考えなくちゃならないんだよ。 そしてね、敷かれたレールから外れたら、誰も助けてくれない…。 普通に暮らしてたら、絶対しないような政治とか経済の勉強も、一杯させられた。頭の中が満杯でさ、付いて行くので精一杯。 学校行ったって、友達を作るどころじゃないし、部活も出来ない。とにかく時間が足りないんだ…。 挫けそうになっていた俺を、いつも優しく支えてくれてたのは、俺の世話係の女性。 祖父さんは、親を亡くして落ち込んでる俺のために、母親代わりに着けてくれたんだけどな。結局、俺は、彼女を保護者っていう目では見れなかったんだ…。 俺はね、十も歳上の彼女に、恋をしたんだ。 彼女の人生もさ、祖父さんの手の内にあって、俺達は、鳥籠の中で…それでもさ、必死にあがいて、大学入ってから、二人で家を出た。そこまでは、よかったんだけどな…。」 「うわっ…なんか、すごい話じゃないの…俺が、聞いてもいい話じゃないんじゃないの?」 「ここまで、話させといて、それはないだろ。」 彼は、俺の言葉に、苦笑いしていた。
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