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「…俺ね、彼女を幸せには出来なかったんだ。
彼女を鳥籠の外へ連れ出せたと、本気で思っていたんだけどね…結果的に、彼女が、俺のために、自分から鳥籠の中へ戻っていったんだ…。」
「君のために?」
「ああ、俺が、祖父さんの跡継ぎにならなくてもいいように、頼み込んでくれたんだよ。自分の人生を対価にしてね。」
「人生を対価にって、その人、何をしたの?」
「祖父さんと結婚したんだ。…元々、祖父さんに見初められて、家へ来たんだから、元に戻っただけだと、彼女は言ったけど、全然違う。俺と彼女と祖父さんの関係は、最初とは、違うんだから…。
彼女は、祖父さんの跡継ぎになる子供を、私が産めばいいんだって言ったけど、俺は、そんなの嫌だった…。
産むならさ、俺の子供を産んで欲しかったから…。」
すごく悲しげな瞳を、彼はしていた。
「…彼女が、俺の元から去って、一年くらいの間、自分でも呆れるくらいに、自暴自棄になってたんだ。
女の子は、来るもの拒まずでさ、取っ替え引っ替えして、暇があったら、部屋に引き込んでは、やりまくってた…。
街に繰り出しては、浴びるほど、酒を飲んでた…。
親友には、本当に、心配ばかり掛けていた…。
まるで、底無し沼の中に、沈み込んでいくみたいだったんだよ。」
「でも、今の君は、とてもそんな風には見えないけど。」
俺の問いに、彼は、小さく笑った。
「出会っちまったんだ…運命の女の子にさ。」
「運命の女の子って、言うくらいなんだから、すごく素敵な子なんだろ?」
「まあな…。その子に出会ったおかげでさ、俺は、もう一度、自分を見つめ直す切っ掛けが出来たんだ。
今からでも、遅くない、俺のために自分の人生を犠牲にした彼女のためにも、なにより、自分のためにも、一からやり直そうって。
だからね、頑張ったんだよ。卒論も、就活も。…おかげでさ、少しだけ夢に近付けた。無事に、念願の出版社にも就職出来たんだ。」
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