圭吾と彰

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「たださ、ひとつ失敗した。」 「…失敗?」 「運命の女の子をさ、俺、ないがしろにしちまったんだ。 卒業までの半年、自分のことで、手一杯になっちゃってね、彼女のこと、ほったらかしになっちゃったんだ。 彼女とは、友達以上の関係には、なってなくて、大学も違ったし、学年もずっと下だったから…そのままにしちゃったんだよ。 あんな素敵な女の子なんだから、絶対、俺よりいいやつが現れる。…なんて、勝手に決めつけて、自分の非は、見て見ぬふりしたんだ。 ああ、あんな娘、この先、絶対、現れないよ…。本当に、俺、馬鹿なんだ。」 「…速水は、正直だね。…俺、そう言うの良いと思うよ。」 「そうか…。」 「うん。良いと思う。俺も、君を見習って、ちょっとだけ正直になるよ。 君からは、すごく大事な思い出を話してもらったんだから。 俺も、君になら、素直になれる気がする。まずは、さっき、勿忘草を買おうとしていた理由を話すよ。 勿忘草はね、俺の死んだ恋人の誕生花だったんだ。」 俺は、穂香との出会い、付き合うことになったいきさつ、そして、彼女を失った事故のことを、話したんだ。 「…亡くなる前の誕生日、勿忘草が欲しいってねだられたんだ。理由聞いたら、誕生花だからだって。 それ以来さ、あの花の鉢植え見たら、穂香を思い出してしまうんだ。 実はさ、会社の後輩と、飲み会の席で、ちょっと揉めた後でね。 飲み会の席で、彼女がいるいないって話の果てに、言いあいして、穂香のことを、カミングアウトしちゃってさ、それ以来、彼女に、無性に会いたくなったんだ…。 わかってるんだよ、もう、この世では、会えないんだって。それでもね、会いたい気持ちは、押さえきれないんだよ。 同僚達がさ、俺の話を知ってから、複雑な顔で、話しかけてくるんだ。同情なんていらないし、それが、逆に、いたたまれない気持ちにすることをさ、彼らは気付いてないんだ…。 穂香にあの世へ行ってでも、会いたいと思うほど、俺の気持ちは、追い詰められて来てた…そんなときにね、あの花屋を見付けたんだ。 勿忘草の鉢植えみたらさ、心がさ、少しだけ暖かくなった気がしたんだ。それから、毎日、花屋の前を通って帰るようになった。 今日、最後のひとつになったから、俺、あすこで、買うか買わないか、迷ってたんだ。」
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