圭吾と彰

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「…それは、悪いことしたな。」 「そんな、頭下げないでよ。別に速水は、悪くないよ。たまたま、あの鉢植えを欲しいって思ったタイミングが、重なっただけなんだから。」 「そうはいかないよ、高見沢。勿忘草の鉢植え、俺、探してくるよ。」 「本当にいいよ。気にしないでよ。」 何度か押し問答の末、俺は、速水の気持ちを受け取ることにした。 「わかった。なら、来年、勿忘草の鉢植えを、花屋で見付けたら、一番に、俺のところに持ってきてよ。それでいいからさ。 俺は、その日のために、頑張ってみる。穂香に会うために、頑張ってみる。」 「よし、わかった。約束するよ。」 その日以来、俺は、速水と、幾度となく会うことになり、酒の杯を交わし、お互いを理解していくことになる。 俺達は、いつの間にか、友情と呼べるようなものを、結んでいた。 まったく違う仕事をしている俺達は、同業者からは、得られない刺激を、お互い得ながら、力を少しずつ着けていった。 1年後、速水は、約束通りに鉢植えを、俺に届けてくれた。 その頃には、折れた気持ちも、元に戻り、俺は、精神的に立ち直りを見せていた。 前向きに仕事をしていたら、自然と、実力を出せるようにもなった。 そのせいかどうかは、わからないけれど、5年目を前に、新しいプロジェクトのデザイナーに抜擢されて、気持ちにも、余裕が出て来た。 あの後輩にも、優しい顔が、また出来るようにもなった。 そんな、ある日、速水から、呼び出しの電話が掛かってきた。 「…ちょっと、仕事のことで、相談があるんだけど、時間作ってもらえるかな。」 この電話が、俺のイラストレーターとしての、デザイナーとしての分岐点になったんだ。
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