圭吾と彰

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「仕事の話って言ってたけど、どういうこと?」 速水の指定した喫茶店で、俺は、彼と向かいあって座っていた。 「俺が、出版社で働いてることは、知ってるよな。」 「ああ、知ってるもなにも、君の仕事が切っ掛けで、俺達は、知り合ったんじゃないか。」 「そうなんだけど…まあ、確認てことで。」 「了解。…で、俺が、君の仕事の何かに、役立つのかい?」 「ああ、役に立つ。あのさ、高見沢は、ふらっと本屋に入って、衝動的に買うとき、どこを見る?」 「なにも決めてなくてか…。そうだな、著者とか、タイトルとか見るな。」 「それ以外は?」 「表紙かな。見た目で、惹かれて買うことがあるよ。」 「そう言うのを、ジャケ買いって言うんだけどな。その表紙って、どんなやつが、描いてると思う?」 「…ちょっと待て。…もしかして、俺に、誰かの本の表紙の絵を描かそうと思ってるのか?」 「話が早くて助かる。実は、そうなんだ。俺が、担当している新人作家の初めて出す本なんだけど、なかなか、良い装丁家が思い付かなくてな。えっとな、表紙のデザイン全般を、装丁って言うんだ。 さて、表紙で、一番大事なのは絵だけど、それだけよくても駄目なんだよ。題字とのバランスとか、人目を引く色使いとか、複合して出来てるもんなんだ。 装丁家ってのは、それを専門にやってる人のことなんだけど、工業デザイナーとして、商品のパッケージなんかを作ってる高見沢の仕事って、装丁家と似てると思うんだ。 本という商品のパッケージと、思ってくれたら、問題ないと思うんだけど、駄目かなぁ…。」 突然の申し出に驚いてしまうのと同時に、ちょっと、面白そうだと、好奇心が働いた。 「…漠然と、絵を描いてとか、デザインしてって言われても、俺、困るよ。 そうだな、せめて、本になる中身と、そっちの希望は、最低限教えてくれないと、考えることも出来ないよ。」 「わかった。それじゃあ、これ、読んでくれるかな。これが、本になる原稿なんだ。」 「仕方ないなぁ…。まずは、読んでからな。やるかやらないかの返事は、いつまでにすればいい?」 「1週間後で、どう?」 「わかった。じゃあ、1週間後。ここででいいか?」 「ありがとう!よろしくお願いします!」 速水は、これでもかってほど、深く深く頭を下げた。
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