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預かった原稿を家に帰ってから、ゆっくりと読んだ。
本になる前の原稿を読めるチャンスなんて、こんなことでもない限りないからな。
綴じられた頁を、1枚、また1枚捲りながら読んでいく。
読みながら、頭の中に、描かれている情景が、頭に浮かんでくる。
「…こういうのは、いい小説だよな。」
そんなことを考える俺は、昔、保育所の片隅で、お袋を待ちながら、本を読んでいたときのように、架空の世界に浸っていた。とても楽しかった。
原稿の中身は、わりと普通の恋愛小説だった。だけど、読後感って言うのかな、それが、すごくふんわりしていて、心地好い。ハッピーエンドのその話は、すごく甘酸っぱくて、初恋を思い出させる。
「これって、女の子の好きそうな小説だよな。」
こんな小説書く人ってどんな人なんだろう?
作者の名前は、【吉水千秋】か。一見、性別わかんないけど、どう考えたったて、女性だよな。男じゃ、こんな細やかな表現出来ないよ。
閉じた原稿の束を見ながら、腕組みして考える。
俺が、これに、表紙を付けるとして、どんな感じにするのかと…。
考えながら気付くんだ。妙に、わくわくしている俺を。なんだか、笑えてくる。
速水には、1週間待たずに、返事をしていた。
「本当か!わかった。原稿書いた本人を連れていくから、会ってくれないか。
そうだ、元々、約束してた日にしようよ。食事しながら、いろいろ話そう。もちろん、食事代は、こっち持ちでだ。」
俺は、断る理由もないから、OKした。
それが、新しい世界への切符になるのだと、確信していたから。
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