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「高見沢、彼女が、今回の仕事の主役。吉水千秋先生。」
約束した時間に、例の居酒屋へ行くと、速水が、テーブル席を取ってくれていた。
俺の前には、速水と一緒に、若い女性が座っていた。
吉水千秋は、俺の予想通りに、女性だったけど、思ってる以上に、ちんまりしていて、美人さん。
後で聞いたら、歳は、俺より4つも下だった。
「彼が、高見沢圭吾。先生の本の装丁をやってくれる。」
「速水君…お願いだから、先生って言うのやめてよ。恥ずかしいから…。」
「まだ、そういうこと言うのかい。本当に、いい加減、慣れてくれよ。君は、もうプロなんだからね。
俺は、君の編集担当なんだから、先生って呼ぶのは、当たり前だろ。高見沢に、笑われんぞ。」
「でも…。」
「はぁ…。ごめんな、高見沢。こいつさ、見た目と違って、極度の人見知りなんだよな。初見の相手だと、先生って呼ばれるだけで萎縮しちまうんだ。」
「なら、千秋さんで、どうかな?これから、一緒に仕事するわけだし。」
「悪いね、高見沢、気を使わせて。呼び方は【千秋さん】でいいよね。吉水先生。」
「…うん。速水君が、そう言うなら。」
「それじゃ、決まり。さて、仕事の話をしようか。」
速水は、千秋さんを立ててるけど、うまい具合に、仕事の中身を誘導してる感じだよな。しばらく、細かい打合せをしていたんだが…。
「なあ、速水、それは、千秋さんの希望なの?…俺には、速水の希望じゃないかと思えるんだけど。」
「痛いところを突いてくるね、高見沢は。
彼女に、全部振って、仕事する相手と、いいように打合せしてくれるなら、俺も、口挟まないんだけどさ…。
こんな性格だろ、ダメなんだよ。超苦手。だから、俺が、引っ張る形になっちゃうんだ。
でも、センスは、ピカイチだから、最終の選択は、ちゃんと彼女にやってもらってるよ。」
「入れ込んでるんだね。」
「まあね。俺の担当作家だからね。」
その時の彼の笑みは、意味ありげだった。本意がわかったのは、もうしばらく経ってからのことだったんだけどさ。
千秋さんが、速水の言っていた運命の女の子なんだとは、その時点では、まだ、気付いてなかったんだよ。
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