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待ち合わせ場所には、速水が先に着ていた。
「速水、待った?」
「いや、俺も今来たところだ。」
「ねえ、千秋さんは?」
「ああ、今日は来ねえよ、内の文豪は。」
「なんで?彼女の本のことなのに?」
気持ちが、ストレートに出ていたらしくて、不服そうな物言いに、速水は、俺をたしなめる。
「まあ、落ち着けよ。別にあいつが、仕事をないがしろにしてるわけでもないし、あいつが、駄々こねして来ないわけでもないから。
ここじゃ、落ち着かねぇから、どっか店入ろうや。なっ、高見沢。」
感情的になってる…ちょっと、自己嫌悪。
速水の言う通りに、近場のカフェに入って、向かい合わせに座る。注文は、珈琲だと思ったのに…。
「カモミールティーありますか?…じゃあ、それを2つ。」
カモミールティー?
俺は、飲んだこともない。
注文したものが来るまでの数分を、速水は、無駄にしない。
テーブルの上に、綺麗な表紙の本が1冊置かれる。後、なにか細かく書かれてある書類一式。筆記用具。それらを並べ終わる頃、ウエイトレスが、カモミールティーを持ってきた。
テーブルの上には、ちゃんと、ティーセットを置くだけの場所は、空けられていた。
カタッ。
小さな砂時計が、ひっくり返される。
「砂時計が止まりましたら、飲み頃でございます。ごゆっくり、お召し上がりくださいませ。」
流れるような動きと言葉に、目を奪われていた。
「さて、言い訳するから、聞いてくれるかな?」
速水の声に、我に返る。速水は、全然、態度も表情も変わってなかった。彼の方が、歳下だってことを忘れてしまうくらい、落ち着いた雰囲気のままだ。
俺が、そんなことを頭の片隅で考えてる内に、彼は、カモミールティーを、カップに注いでくれていた。
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