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いよいよ、明日、千秋さんの初めての本が発売される。俺の手元には、発売前の本が数冊あった。
「…おはようございます。…あの、部長、少しお話出来ますか?」
「朝から、どうした?」
部長を掴まえた俺は、おもむろに、封筒を差し出す。
「中を見ていただけますか。」
封筒の中身は、千秋さんの本。
「…高見沢、これは、どういう意味だ?」
本を手にした部長は、怪訝な顔をした。
「俺は、会社に黙って、仕事を受けました。その表紙は、俺が装丁作業した成果です。」
「…高見沢が、デザインしたのか?」
「はい。…あの、もしこの仕事をしたことが、問題になるようなら、遠慮せずに言ってください。それなりに、覚悟は出来てますから。」
「確かに、副業は、禁止されてるからな…。
だけど、お前は、デザイナーだから、自分のデザインを使ってもらえるってなったら、どんな仕事だってしたいわな…。
う~む、どうしたもんかな。」
部長は、腕組みして、しばらく考え込んでいた。
「高見沢、お前は、自分のやったことを、きちんと自覚してるし、形にもしてる。問題になった時の覚悟も出来てるって言われちゃあ、俺からは、何も言えんよ。
武士の情けだ。俺は、しばらく黙っといてやる。ただし、上から、なんか言って来たときは、黙って従えよ。」
「はい、ありがとうございます。
あの、ご迷惑でなければ、その本は、もらってやってください。中身は、恋愛小説ですけど、男が読んでも気にならないくらい、素敵な話です。それに、すごく優しくて綺麗な文章なんですよ、千秋先生の書くものは。」
「そう言うなら、もらっとく。まあ、暇なときにでも読んでみるよ。」
俺は、深々と頭を下げると、部長の元から、仕事場へと帰った
今は、与えられた仕事を確実にこなして、実力を付けることだけを、目指すことにした。
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