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「おはよう。…高見沢が、朝から部長のとこなんて、珍しいな。」
「ちょっと、予防線張ってきたんだ。」
「…何の?」
「この前の野暮用の結果が出たからさ。事後報告になるけど、ちゃんと耳に入れとかないと、後々、面倒だからさ。」
「なあ、お前、何やらかしたんだ?」
「はい、これ。これが、野暮用の結果。よかったら、読んでよ。なかなかいい話だからさ。」
福澤は、手渡された本を繁々と見た後、今度は、俺の顔をまじまじと見た。
「まさか、お前が書いたのか?」
「いやいや、俺には、こんな優しい話は書けないよ。外だよ。外。」
「…もしかして、この表紙のデザイン、高見沢がしたのか?」
「そう言うこと。出版社で働いてる知り合いがいてさ、担当してる作家の本の表紙を頼まれたんだ。
内緒にしといても、よかったんだけど、後で、そんな話聞いてないって言われると、面倒だろ。」
「部長…どう言ってたんだ?」
「部長は、静観するってさ。但し、上からなんか言われたら、自分で責任とれってさ。
まあ、そのつもりで、部長に話したんだし、覚悟は出来てるんだ。」
笑って答える俺に、福澤は、ムッとした顔で言った。
「覚悟は出来てるって、どう言う意味だよ。もしかして、辞める気なのか?」
「…最悪はね。…はい、この話は、終わりだよ。今、やるべき仕事をこなさなきゃ、給料泥棒になっちゃうでしょ。」
まだ、何か言いたそうな顔している福澤を、視界から追い出して、俺は、デスクの上に、やりかけのラフ画を取り出して、パッケージデザインの仕上げを始めた。
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