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「よかったのか?本当に辞めちまって。頭を下げたら、なんとかなったんじゃ…。」
「いいんだ。部長とは、そういう約束だったんだし。福澤が、気に病むことじゃないよ。」
千秋さんの本は、新人にしては、売り上げが、すごくよかったらしい。
作者が、超可愛い女の子だと知って、彼女を、アイドル的な目で見るファンが、かなり着いたみたいで、その人達が、沢山買ってくれたみたいだ。
もちろん、彼女の書く恋愛小説は、若い同年代の女子のハートをがっちり掴まえていた。
そこへ持ってきて、本屋に並べたときに、俺のデザインした表紙が、インパクトあったらしくて、表紙買いした人達がかなりいたらしい。
そうなると、表紙のデザイン…つまり、装丁をしたやつは誰だ?と、業界では話題になる。
分野は違っていても、デザイン界なんて狭いから、すぐに、俺の素性がばれる。回り回って、上のお偉方の耳に、話が届くのは時間の問題。
俺のいる企画部は、新製品の総合プロデュースしている部署だから、他の社員達より、動向が問題になるんだ。特に、生産方面の技術者は、外へ情報や技術を、提供することはもちろん、副業も禁止されている。それは、デザイナーも同じだ。
だからこそ、わざわざ、早めに部長に、話に行ったのだ。いざというとき、辞めやすいように…。
会社側の言い分を全面的に飲んで、円満退社するのと、揉めるだけ揉めて、ぐだぐだして、結局、首を宣告されるのとは、全然違う。
俺は、タイミングを見計らって、会社側から、なにか言われる前に、自主退社することにした。あくまでも、俺の一身上の都合。退職金とかの、金銭面でも揉めることはない。
そのために、俺は、叱責されるの覚悟で、わざわざ、部長へ、話に行ったのだから…。
「なあ、これから、どうするんだ?」
「うん、フリーのデザイナーとして、仕事をやっていくよ。
今までやって来たことは、みんな俺の身になってるはずだから、どんな小さな仕事でも、やるつもり。
ここでなら、工業デザイナーとして、安定した収入を、得られるけど、所詮は、型にはまった中でしか仕事出来ない。
今回さ、装丁の仕事やらせてもらって、俺の知らないこんな世界もあるんだって知ったんだ。世界は、すごく広いんだよ。俺は、もっともっと、その世界を知りたいんだ。」
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