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俺は、まあ、俗に言う苦学生ってやつだ。
元々、大学に通う予定じゃなかった。
デザイン系の専門学校に行くつもりしていたんだ。
だけど、お袋は、俺に大学は、出ておくべきだって言い張った。
「圭吾、あんたが、デザインの勉強したいのは、母さんだって、よくわかってるよ。でもね、今の世の中、大学出てるか、出てないかで、将来変わってくるんだよ。
母さんは、行きたくても大学行けなかったからね…。
あんたは、男の子なんだから、一生に関わってくるんだよ。母さんがしたみたいな苦労、あんたは、する必要ないんだかからね。」
お袋が、俺を身籠ったとき、まだ18歳だった。親父は、社会人で、責任は、しっかりとりますって、結婚してくれたけれど、結局、他の女と良い仲になって、お袋は、捨てられた。
まともに、養育費も払ってくれない親父に頼らずに、お袋は、女手ひとつで、しっかりと俺を育ててくれたんだ。
お袋は、ことあるごとに言っていた。
「あんたを産んだことは、一度だって、後悔したことないんだよ。ただひとつ、後悔してるとしたら、大学に行かなかったことだよ。受験も終わって、行く大学だって決まってたのにね。
あんたを育てながらだと、大変かもしれなかったけれど、行くべきだったんだよ、私は。
私は、チャンスを自分で潰してしまったんだよ。
大学卒業してたら、採用してもらえたかもしれない仕事は、いくつもあったんだ。もっと、あんたにも、楽させてやれたのにね…。我慢させること、あんなになかったのにね…。」
そんなお袋に、ちょっとばかり反抗的な態度をしていた俺は、後悔することになった。…高3の夏休みの終わり、お袋が、倒れた。医者に告げられた言葉に、俺は、何も言えなくなった。
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