圭吾と彰

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月末付けで、俺は、退職した。もちろん、やりかけの仕事は、きちんと、終わらせてからだよ。 全部が片付いてから、速水と会った。 「高見沢、お前、本当に、会社を辞めたのか?」 「うん、辞めた。」 「これからどうするんだよ?」 「速水も、同じこと言うんだ。」 笑ってそう言ったら、真面目な顔で説教された。 「装丁の仕事は、俺が頼んだことだ。それが、原因で、会社に居づらいことになったんだったら、責任は、俺にも、多少なりともある。だから、まず、謝らせてくれ。 その上で、はっきり言う。フリーでやっていくって、目処はあるのか? 行き当たりばったりで、そういうこと言ってんだったら、俺は、どんな形でも良いから、再就職しろって言うぞ。 フリーでやるにしても、営業回りしなきゃ、簡単に仕事は、もらえない。お前は、それを出来るのか? 事務所はどうするんだ?…その場所は?名前は? 将来的に、会社組織にするのか、しないのか? なあ、そう言うの考えてんのかよ…。」 「速水は、やっぱり違うな…。視点が、みんなと、全然違うよ。 会社の仲の良い同僚達は、同じ様に心配してくれたよ。でも、辞めないでくれって止めるか、これからどうするんだって、質問をぶつけてくるだけでさ、速水みたいに、具体的に俺が、これからどうしなきゃならないかまで、一緒に考えてはくれないよ。 そこまでは、頭回らないんだろうな…。 別にさ、それを責めるわけじゃないよ。 我が身を、なんとかするので、みんな必死だもん。まあ、俺も、そうだけど。 なあ、速水。俺は、先のことを考えてない訳じゃないよ。こんな仕事してるけど、これでもさ、経済学部出てんだからさ、営業やマーケティングの大切さは、十分わかってるから、安心してよ。」 「…高見沢、経済学、修めてたのか?俺は、てっきり、美術系なんだと思ってた。」 「やっぱりそうだよね。俺達さ、大学で、なにやってたかは、お互い話してなかったもんね。」 俺は、ケラケラ笑っていた。
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