圭吾と彰

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「なに笑ってんだよ…。」 「だってさ、俺達が、知り合って、もうすぐ2年になるんだよ。その間に話してたこと考えたらさ、おかしくて。 仕事の話以外でさ、突っ込んだことを話してないなんてさ。味気ないし、お互いを知らなさ過ぎるよなって思ったら、なんか、おかしくてさ。」 「言われてみりゃそうだな。」 「俺さ、速水に出会って、よかったって、今思ってんだ。」 「本当に?」 「嘘言ってどうするんだよ。だからね、俺の本音を話すよ。」 「…本音を?」 俺は、ニコッと笑って続けた。 「俺ね、小さい頃、お袋を、保育所で待ちながら、いつも本読んでたんだ。挿し絵のないところは、自分で、挿し絵を想像しながら読んでた。 自分なら、こんな本にするのにって、批評家の真似事したりしてさ、笑えるだろ。 その内、 絵物語って言うのかな、文字のない絵だけの本を作ってた。もちろん、子供の作るものだから、拙い内容だったけれどね。 今にして思えば、あの頃から、俺は、本を作る仕事をしたかったのかもしれないな。 小学校入ったら、沢山友達ができて、遊び回って、一人の時間が減った。必然的に、本を読む時間が減った。絵を描く気持ちもなくなってきた。…でもね、どこかに、ずっと燻っていたんだよね、絵を描きたいって気持ちが。 中学時代、課題の絵が、賞もらってから、流れが変わった。 文化祭や体育祭のポスターの絵を任されてさ、みんなが、俺の絵を格好いいとか、素敵だ、綺麗だって言ってくれたら嬉しかった。 高校生になって、部活で、美術部に入ったのは、必然だったのかもしれないな。 そんな中で、自分の将来考えてたら、漠然とだけど、デザインを勉強したいって思うようになった。だから、デザインの専門学校へ進学するつもりだったんだ。」 「なんでしなかったんだ?」 「…お袋が倒れたからだよ。俺の進路がなんで、お袋のこととつながるのかって思うだろうけど、大事なことなんだ。 家は、親父がいないから、生活も学費も、なにもかも、お袋頼みだったんだ。そのお袋が、重い病気になっちまってさ、先が見えなくなったんだ。 進学は諦めて、就職しようかって本気で、考えてたんだぜ、あの頃は…。 そんな俺を、見かねてお袋がさ、進学のことだけ考えろって言ってくれたんだ。」
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