圭吾と彰

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「進学のことだけって言われても、実際のところ、なかなか難しかったんだ。 高校の進路の先生が、すごく親身になって相談にのってくれた。 専門学校に行きたい俺…。 大学へ行けと言うお袋…。 この行き先の違うふたつを、ひとつにするために、美大や芸大、デザイン系の単位やコースがある大学で、進路を考えたんだけど、問題があったんだ。 お金…。 当たり前っちゃ、当たり前なんだけど、一番ネックになってた。 先生が、奨学金を勧めてくれたし、家みたいな母子家庭は、間違いなく審査に通るからって言われて、授業料は、心配しなくて、よかったんだけどな、この奨学金てのは、授業料分しか出ないんだよな。 それ以外の実習費やらなんやら、考えただけで、頭痛くなった。」 「それは、普通、親が考えることだものな…。」 「うん、そうだね。でも、お袋が、動けないんだから、しかたないよ。 俺のことより、治療に専念して、体調を戻して欲しかった。少しでも長生きして欲しかったからね…。 そんなときさ《工業デザイナー》って、職業があることを知ったのは。 デザイン関係の仕事は、そういう名前のついた事務所に勤めるとか、服飾系のデザイナーとかしか、漠然と思い付いてなかったから、もう目から鱗さ。 一般の企業でも、企画とか開発の部門で、そういう仕事が出来るなんて、すごいって思えてさ、いろいろ調べたんだ。 この仕事には、デザインの知識も必要だけど、それ以上に、経済の知識が、必要だって気付いて、経済学を勉強することにしたんだよ。 大学に進学してからはさ、経済学の勉強必死にしたよ。平行して、デザインの知識を着けるために、関係のありそうな講義を聴講したり、関わりのありそうな資格を取るための努力もした。コンテストや公募に作品応募して、実力を着けようと頑張った。 そういう努力は、無駄じゃなかった。無事に、工業デザイナーとして、就職出来たんだから。 実際、仕事は楽しかったよ。やりがいあったし。夢があった。でも、なにか足りないんだ。それがわからなかった…。」
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