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「ああ!いた!いた!」
修は、店の中から、勢いよく飛び出してくるなり、叫んでいた。
「お前、気分悪くしたみたいで、店の外へ行ったって…。」
「心配してくれてありがとう、千葉。でも、もう、平気だから。…大丈夫。」
彼女は、修の姿を認めると、ニコッと笑って、小さく頭を下げると、入れ替わるように、店の中へ入っていった。
パタンとドアが閉まった音と、彼女の後ろ姿が、目に入った瞬間に、修は、自分の失態に気が付いた。
「もしかして、俺、邪魔しちゃったのか?…悪い!すまん!」
「気にしないで。別に、そういうんじゃないし…何にもなかったから…。」
「何にもないわけないだろう!
お前、自分の表情わかってんのか?なんて、面してんだよ。まるで、あの子に、未練たらたらだって顔してるだろうが!」
「俺が、未練たらたらの表情だって?!」
閉まっているドアを、俺は、見つめながら、『そんなんじゃない』って、呟いていた。
だけど、本当に、それでいいのか?
俺の中のなにかが、『良くない!』って叫んでいた。
俺は、彼女の名前さえ聞いてなかったのだと、気付いた。
今日の問題は、今日片付けなくちゃ。
俺は、修の存在を、忘れたかのように、店にとって返した。
「おい、急にどうしたんだよ。高見沢!」
「ごめん、千葉…俺、行ってくる。」
「行ってくるって、どこへ?」
もう、俺の耳には、修の声は聞こえていなかった。
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