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~ * ~
町は、夜になると違う姿を見せる。
昼間は、すまし顔で建ち並ぶ家々も、人の姿もまばらになる夜更けには、
玄関の灯りも落ちた暗闇の奥で細く息をひそめる。
明るい日差しの下、子供たちの声で賑わう公園は、
二本の外灯の薄緑色のぼんやりとした光の中で、
ひっそりとブランコに座る人影を、虚ろに映し出す。
工具や重機の織りなす大きな音と、人の声に溢れる工事現場も、
音とは無縁に、鉄板を並べたフェンスの向こうに静かにその身を隠す。
恐らく、夜という帳の下りた町の中では、
光は、ほとんど定位置にしか存在しないものなのだろう。
そして、そんな別顔になった町を、
俺は、いつものように自転車のペダル音を耳にしながら走っていく。
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