~  *  ~

1/4
前へ
/54ページ
次へ

~  *  ~

町は、夜になると違う姿を見せる。 昼間は、すまし顔で建ち並ぶ家々も、人の姿もまばらになる夜更けには、 玄関の灯りも落ちた暗闇の奥で細く息をひそめる。 明るい日差しの下、子供たちの声で賑わう公園は、 二本の外灯の薄緑色のぼんやりとした光の中で、 ひっそりとブランコに座る人影を、虚ろに映し出す。 工具や重機の織りなす大きな音と、人の声に溢れる工事現場も、 音とは無縁に、鉄板を並べたフェンスの向こうに静かにその身を隠す。 恐らく、夜という帳の下りた町の中では、 光は、ほとんど定位置にしか存在しないものなのだろう。 そして、そんな別顔になった町を、 俺は、いつものように自転車のペダル音を耳にしながら走っていく。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加