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この日の遅番は、閉店時の客が少なかったこともあり、
どうにか日付を跨がず家路につけた。
この日の夜気は、久しぶりに一日曇りだったせいか湿気を含み、
どこか生温かさを感じさせる。
俺は、そんな空気を切るように、いつもの道に自転車を走らせた。
店を出て5分ほど走ると、なだらかで少し長い坂道に出る。
例の、新しいパン屋の手前まで続くやつだ。
そしてその両脇には、新旧が混在する住宅街が結構深くまで広がっている。
だが今は、そのほとんどが光から遠く眠りの底。
そんな中に、ポツリと現れる公園。
ここは、俺が子供の頃からある場所で
小さかった頃は、時々姉と一緒に遊びにきた記憶もある。
そして、そこで時折見かけるブランコに座る人影。
ブランコが公園の一番奥にあるため
その人が細身であることしか分からないが、
いつもコンビニからの帰りらしい袋を膝に置き、少し俯き加減に座っている。
ところがこの夜は、そこに人影が二つあった。
しかも、その一つの胸の辺りでは
豆粒くらいの光が、ブランコの揺れと一緒にチラチラと揺れている。
それでも俺の耳に届く音は、細く高いブランコのチェーンが軋む音と
俺の自転車の車輪が奏でる微かな音だけ。
二人の姿も、道路からの俺の目には遠すぎて話をしているのかも分からない。
そして俺も、ちょっとだけ見知らぬ小さな光を記憶の隅に留めただけで
スピードを落とすことなく、そこを通り過ぎた。
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