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瞬く間に、俺の耳に届く音は、再び自転車を漕ぐものだけになった。 こうして夜道を走ること、更に5分あまり。 一ブロックに二本くらいしかない外灯の光だけでも、 もう数軒先にある自分の家が分かるという所まで来た時。 俺は、この夜ふたつ目の見知らぬ「灯り」を前に 思わずゆっくりと自転車を止めていた。 その家は、築40年を超える古い平屋。 暗がりの中でも薄ぼんやりと白っぽい物に全体を覆われているのが分かり、 そしてそれが、ペンキ飛散防止用の幕だということも俺は知っている。 そう。昼間、“スピーカー”が話題にしていた例の家だ。 そしてその幕の奥で、 恐らく窓から零れていると思しき光を見るのは初めてだった。 その「灯り」は家の中の電灯なのだろうか、まったく動きはしなかった。 だが、光がそこから発しているということは、 この中に人がいるのは間違いないはず。 しかも、こんな深夜にだ。 俺は、思わず人影を探すように幕の向こうに目を凝らした。 だが、光の中で何かが動く気配はなく音もしてこない。
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