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朝、家を出る前はあんなに肌寒かったのに、昼を過ぎた今は、蒸し暑い。
袖をクルクルと捲り上げ、問題をペンで突つく。
「じゃー、沙耶が、やり方教えてよぉ…。」
考えれば考えるほどに、死神の顔色と目の下のクマが目に浮かぶ。
だから、沙耶に甘えてみた。
「あのね、この前と同じようにやったらいいんだよ、多分。」
沙耶だって、数学は苦手。
でも、苦手なだけで、嫌いじゃないんだって。
なんせ…。
「じゃあさ、放課後、葉山先生のところ行こっ!私も、聞きたい事があるし。」
そうだ、沙耶には、葉山先生が居る。
別のクラスの数学担当の葉山輝先生は、30代前半くらいに見える20代後半。
まぁ、高校に居たら、その年代の男性なんて、ちょっと割り増し気味でかっこ良く見えたりするん
だ。
でも、葉山先生は、女子には兄ちゃん的な存在でしかない残念な感じの先生。
ある意味、残念な親しみ易さから『てるちゃん』と大半の生徒から呼ばれていた。
そんな取り立てて目立つ男前でもないのに、沙耶は1年の時、多分…学年でただ1人、てるちゃんにときめいてしまった。
私達は、『とても残念な勘違い』と呼びながらも、生温かく見守っている。
そんなワケで、沙耶は、少しでもチャンスを見付けては、てるちゃんに近付こうとする。
死神とのマンツーマンコース回避の為、喋った事もない『てるちゃん』に接近する日が来た。
これが、大人になってまで沙耶と上手く行かなくなるキッカケになってしまうなんて…。
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