第1章

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放課後、沙耶は浮かれていた。 日頃、サバサバしている彼女が、浮き足だっている。 お互いにガサガサしているので、恋愛にも程遠い地域に居る私達。 だから、沙耶の気持ちも良くわからないし、彼女のお気に入りの先生くらいに思っていた。 なのに、何だろう…。 この違和感。 沙耶は、職員室のドアを開けた瞬間、仕草だけではなく、髪の艶から肌の質感まで変わったように見えた。 沙耶の見たことない顏に、ビックリして、ただボンヤリと後ろについて歩く。 沙耶の全てを観察してしまう。 迷うことなく、慣れた足取りでてるちゃんに近づく沙耶。 足元からは、一歩ごとにハートすら飛び出して来るのではないか?というくらいのウキウキ感。 女子のように歩くその後姿に、私は戸惑った。 これは…本当に先生に質問するのか? 女子なのに女子感を疑われる沙耶も残念だが、私も、残念な事に気付いてしまった。 知らない先生に知らない生徒が来ても教えてもらえるのか? 面倒だからって、死神のとこに回されたりしないかな? それだけは…絶対避けたい。 1人でモヤモヤとしていたら、沙耶は、てるちゃんに声をかけていた。 「先生、今、暇ですか?」 頬をピンクに染めて、上目遣い。 おぉ! マンガで見たような女子!! ザワザワする私の脳みそ。 マンガでは、好きなヒトに向けるそのピンクの頬と視線が、リアルに目の前に展開されている! 沙耶は、どうやら本当に、この兄としか思って貰えない冴えない男性教諭が好きらしい。 私は、初めて他人が好きな人を見つめる姿に出会った。 そして、私には、まだ暫く先になる姿だった。
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