第1章

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 冷やし中華など久しく食べていない。吐き出した麺も消化されてはおらず噛み砕いた跡の様な物も無い。良夫は気味が悪くなり手のひらの物を地べたに落とし両手をズボンに拭った。    周りを見ると数人の男女が気味悪そうに良夫を見ている。    苛立った良夫は周囲に向かって怒鳴り散らそうとしたその瞬間、急に全身の力が抜け、膝から崩れ落ちて大量の冷やし中華を吐き出した。   「助けてくれ!」    良夫の叫びも空しく、周囲はただ、不機嫌な顔つきで良夫を見ては通りすぎるのみだった。    良夫は必死で誰かにしがみつこうとするが、中々つかまらない。やっとの思いでしがみついたのは先程のサラリーマンだった。が、サラリーマンは良夫を引きはなそうと必死で顔を蹴りつけた。    爪が剥がれ顔の皮膚が剥けてくる。しかし良夫から流れるのは血液ではなく冷やし中華の汁だった。傷の大きい箇所からは麺が垂れ落ちて来る。    いよいよ良夫は混乱して、サラリーマンに殴りかかった。良夫の拳はサラリーマンの顎に入り、サラリーマンはそのまま倒れ込んだ。   「畜生! 畜生!」    馬乗りになり何度も殴り付ける。    するとサラリーマンは目から黒色のなみだを垂れ流していた。    なみだを? それはなみだではなかった。良夫と同じ、冷やし中華の汁だった。
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