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「普段はいい気になって、無心論者を気取っておきながら自分の都合のみで神を求めるか? 救われるとでも思っているのか?」
サラリーマンは良夫に顔を近付けて、目や鼻、口からボタボタと冷やし中華の汁を垂らしながら不気味に微笑んでいる。
「神の名も分からぬ、神と言えば全ての神が味方するか? 基督が現れるか? ゼウスが雷を落とすか? 大日如来を悟れるか?」
サラリーマンの言葉は次第に良夫の微かな希望を消し去っていった。合掌していた手のひらさえ力が入らず、痺れ始めて自由に動けなくなっていった。
そこに小さな男の子の手を引いた若い母親が現れた。良夫は既に助けてと声すら発する事も出来なくなっていた。母親の手をはなれ、子供が良夫の腹の上に乗っかる。
乗っかった男の子は良夫の腹の上で元気よく跳び跳ねた。たまらず良夫は何度も冷やし中華を吐き出す。子供の母親が言った。
「ごめんなさいねぇ。この子、お兄さんの事気に入っちゃったみたいで」
母親は子供を抱えあげた。そして、勢いよく良夫の顔面に振り落とした。
良夫の口の中で歯が数本折れ、それと同時に冷やし中華の汁が溢れだした。
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