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いつもは冷めている身体が
今はほんの少しだけ温かい。
「あ、瑞希。具合は?」
「うん、もう大丈夫。」
保健室から教室に向かう途中で、俺を迎えに来たという奈都と、
もう一人の幼馴染・柊真(とうま)に出会った。
「やっぱ具合悪かったんじゃん!」
「奈都としゃべったら余計に悪くなった。」
「ひどい!柊真、瑞希がいじめるよ!!」
「いつものことだろ。」
「柊真まで!!」
相変わらず、騒がしい奈都には構わず、俺は教室に向かって柊真と歩き出した。
柊真は、言葉を選ぶように、ぽつりとしゃべった。
「…あんま、無理すんなよ。うちの親も心配してる。」
「あはは、それは申し訳ないなぁ…。」
「今度、飯食いにこいって。」
「ありがとう。おばさん達によろしく伝えて。」
柊真とウチはすぐ近所で、小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしている。
俺の身体のこともよく知っていて、海外出張でほとんど家にいない両親の代わりに柊真の親はいろんなことをしてくれた。
「…ごめん、トイレ寄っていく。」
「おう。教室行ってるわ。ほら、奈都も行くぞ。」
「俺もトイレ…」
「奈都はさっき行ったばっかだろ。」
「チッ…」
柊真は、トイレついてきそうな勢いの奈都を引きずって教室へ向かっていった。
扉を開け、なんとなく視線を送った鏡に映った自分の姿に、俺は思わず声を上げた。
「…ぅわ。」
首筋の、ワイシャツの襟際のきわどいところに、ぽつりと赤い点。
「…珍しいミス。それとも、わざと?」
指でそっと触れると、数十分前のあの時の体温を思い出し身体の中心がうずく。
いつもなら、絶対見えない所に付けるのに。
ーーー反芻する。
誰もいない保健室のベッドの上。
枕に顔をうずめて、声を押し殺して。
後ろから犯されながら、それでもあふれる感情を、熱を、欲を…
すべて、あの人に預ける。
”ココを望んだのは、君でしょう…?”
黒い髪を少しだけ乱し、整った顔を歪ませながら俺を見下ろし、責める。
その、本心を見せない瞳で、大切そうに俺を抱く腕。
そして俺より少しだけ温かい熱を帯びた身体が、自分を貫く瞬間。
”瑞希…”
絡めた指も、耳元で名を呼ぶ声も、身体をなぞる指先も…
すべてが、心地いい…
彼を思うたび胸を突くこの痛みを抱えて。
俺は今日も、熱を求めてさまようんだ…。
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