相談

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 それと同時に一葉の写真が机の上に置かれる。20代後半……紫貴とそう変わらない年頃のがっしりした体格の男性だ。彼の名前が『葛城礼司』なのだろう。  紫貴がふと思い出したのは、礼緒菜の以前の名字。出会った翌週に旧姓の『朝比奈』に変える前の名字が、『葛城』だった。  理由を聞いたらとんでもなく嫌な顔で、しぶしぶ答えてくれたことを。 『結婚していたのよ、私。相手は、貴方と同じ、検事。内部告発しようとして、殺されちゃったけど。 だから、今は旧姓に戻ってるの』  ここ数年に死亡した『現役検事』は、たったふたり。滅多に無い所為か名前だけは紫貴の記憶に残っていた。  ただし、『葛城礼司』の死因は交通事故死だったはずだ。少なくとも、報道された内容では。 「ああ。覚えてる」 「俺たちの先輩検事だな」  礼緒菜が、そう言った黒埼と紫貴を交互に見て質問する。 「彼の死をどう思う?」 「事故だって聞いた」 「うん。……違うのか?」  紫貴の問いかけに礼緒菜がこくりと頷く。 「私は違うと確信してる」 「根拠は? あるんだろ?」  礼緒菜がすっぱりと言い切ると、紫貴が彼女の真意を質(ただ)す。  礼緒菜が無言でバッグからMicroSDを机に置く。無言は肯定ととらわれやすい。 「……これは?」  黒埼がきょとんとした声を出す。 「私と彼が調べていた、ある検事の死について」  『自殺』と報道されたもう一人の検事のことなのか、それとも表に出てない人物の事なのか。多分、前者だろう。  紫貴がmicroSDを拾い上げる。 「……見ても?」 「勿論。意見を聞きたいの」  そう言われて、紫貴が無言でノートパソコンを起動させる。と、黒埼が紫貴の背後に回る。  その様子を無言で見つめる礼緒菜。 「借りるぞ。……パスワードとかは?」  紫貴の問いかけに礼緒菜が淋しく笑う。 「”秋霜烈日”。彼らしいわ」 「綴りは?」  "shusorethujithu”と書かれた小さな紙片を出しながら礼緒菜が言う。 「わざとスペルを変えてあるの。簡単には分からないように」  言われて黒埼と紫貴が紙片に目を落とす。 「どれだ……ああ」 「……あった。『つ』だな。『tsu』が『thu』になってる」 「それだけ、慎重になってたのに…」  礼司の事を思い出したのだろうか、礼緒菜が声のトーンを落として淋しそうに言う。
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