遺書

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 紫貴と黒埼の軽い口調のやり取りを見ていた礼緒菜が、ポツリと呟く。 「持ち込んで良かったのかな、こんなこと。何か、大変なことになってる気がする……」  それに先に反応したのは黒埼だ。 「何言ってんだか。持って来た相談(もの)を取り消せないぜ?」 「そうそう♪」  くすくす笑いながら紫貴がそう続ける。 「私、間違ってませんよね? 力を借りていいんですよね?」  不安そうに、確かめるように礼緒菜が尋ねる。 「ああ。任せなさい」  紫貴がおどけたようにそう言った。 「それと、先輩検事って、礼緒菜も知ってる筈だから」 「え……先輩って、仙堂さん?」  きょとんとした顔で礼緒菜が言う。 「そうそう♪」  紫貴と黒埼が同時に頷いた。 「って……え? 知り合い?」  黒埼がびっくりした顔で二人を見る。 「はい、前に一度だけお会いしました」 「へえ……何処で?」 「空手の手合わせで、審判をしました」  礼緒菜と黒埼のやり取りを見ていた紫貴がやんわりと訂正する。 「そりゃ、場所じゃないだろ」  黒埼の方を見て、場所を教える。 「警視庁の道場……術科センター……でね。俺、こいつに呼び出されたから知ってる」 「あはは、そうでした」  礼緒菜が苦笑して言う。そして、爆弾発言。 「私も是非一度手合わせを……」「礼緒菜!」  「仙堂さんと」と、紫貴が礼緒菜に言わせないように彼女の名前を被せる。 「ごめん、ごめんなさい!」 「……ったく」 「……?」  黒埼のきょとんとした顔。  礼緒菜が黒埼のほうを見る。 「私も空手をしているんです。だから、強い人と聞くと、つい、手合わせをしたくなるんです」 「礼緒菜、お前な。わざわざ説明するなっ!」  言わなくてもいいことを話す礼緒菜に、紫貴のカミナリが落ちる。 「くっくっくっく……面白いお嬢さんだ。相原も苦労しそうだな」  こらえきれないように黒埼が笑いながら言う。 「え? 面白かったですか?」 「ああ」 「紫貴、苦労してる?」 「苦労っていうより、楽しんでる」  プライベートでは、礼緒菜が無自覚で紫貴をドキドキさせてくれる。それが紫貴には堪らなく可愛い。 「お嬢さんって育ちでもないですよ?? 楽しんでるって……」  礼緒菜が紫貴の言葉に軽くショックを受けた顔をする。
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