遺書

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「ロビーで待っててくれ」  黒埼が部屋のドアを開けて、礼緒菜に部屋から出るように促す。「……はい」  礼緒菜が急ぎ足で部屋から出て行く。  黒埼が給湯室に行き、氷を詰め替え、タオルを巻き直す。  その間、礼緒菜は紫貴に向かい携帯でメールのやり取りをしていた。 『どうしよう…天然ボケで、黒埼さんを怒らせちゃったみたい 。・゜・(ノД`)・゜・。』 『帰ったら撫でてあげるから、泣くな。 黒埼さんとまだ一緒なら…… 暫く弄られると思え(笑)』 『弄られるというか…通り過ぎて、怒ってるようにしか見えない(T ^ T)』 『そんなに短気なタイプじゃないから。 大丈夫だよ』 「天然ボケなんとかしなきゃ……仕事以上に難しいかも」  自覚はしているらしく、携帯を見つめたまま、涙を浮かべしょんぼりとする礼緒菜。  礼緒菜の元へ戻って来た黒埼が礼緒菜の涙目を見てびっくりした顔をした。 「おでこ、そんなに痛いのか?」  黒埼が言いながら、氷を礼緒菜の額に当てる。 「額も痛いですけど、黒埼さんを怒らせた方が痛いです」  礼緒菜がくっすん、と涙をこぼせば。 「泣くな。怒ってないから」  黒埼が氷を礼緒菜の額から離して、デコピンを一発。 「い、いったぁい~」  礼緒菜が痛そうな顔をする。と、黒埼かくっくっくっくっと笑いながら意地悪く言う。 「お嬢……坊っちゃんは、笑ってる方が可愛いぞ、と」  言いながら礼緒菜の手を掴むと、その手のひらの上にタオルで巻かれた氷の入った袋を置き、手を離す。 「ですから、坊っちゃんでもありませんから~」  礼緒菜が苦笑するようにそう言う。確かに、坊っちゃん……男では、ないが。 「…………地球外生物」  ぼそっ、と黒埼が呟いた。  ちなみに、黒埼が最初に言った『お嬢さん』は、『お嬢様育ち』の意味ではなく、『女の子』と言う意味である。  礼緒菜は『お嬢様育ち』と取ったようだが、完璧に勘違いだ。  黒埼が礼緒菜の方を見て、車のキーを見せ 「送る」  と一言。 「聞こえましたよー?」  聞こえた、と言って否定しない礼緒菜にびっくりする黒埼。 「あれ、否定しないんだ? 聞こえたなら、否定すると思ったのに」  そう言ってひとしきり笑う。 「わざわざありがとうございます」 「どういたしまして」  そう言って、黒埼が先に立って歩き出した。 .
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