相談

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 刑部の検事への対応は、冷ややかそのものである。法廷でも男に引けを取る事はないほどだ。自分の好物であるプリンを持って来た黒埼に対する態度も、やはり冷ややかだった。  黒埼はそんな彼女が、『鉄の女』のイメージより綺麗なことや、プリンが好物だというギャップが微笑ましく見えたのだ。  『鉄の女』より『月の女神』の方が似合っている。そう、思った。 ゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。.:*・゜  翌日、紫貴と礼緒菜が一緒に登庁すると、礼緒菜は黒埼(くろさき)の執務室へ、紫貴は自分の執務室へと別れた。  東京地検は、他の地検とは違い、刑事係の検事は2部に別れている。  黒埼の所属する捜査部と、紫貴の所属する公判部がそうなのだ。  小一時間から二時間経った頃。  調書を取り終えた黒埼が、ふわりとした笑顔を礼緒菜に向ける。 「ありがとうございました」 「いえ。御苦労様でした」  礼緒菜が席を立って、ぺこりと頭を下げた。  ──ごちん  深くお辞儀をした礼緒菜が、おでこを椅子の背もたれにぶつけた鈍い音がした。頭を上げた彼女は、額に手を当てて涙ぐんでいる。 「痛……っ!」  笑いを堪(こら)える黒埼と事務官。 「……っ」  礼緒菜がバッグを持って、ドアに向かう。片手は額に当てたままだ。  黒埼が立ち上がって、ドアに向かった。  ドアを開ける。 「……どうぞ」 「……ありがとうございます」  捜査部のオフィスの共有スペースに出る。共有スペースと言っても、自動販売機と椅子とテーブルがいくつかあるエレベーターホールだ。  そこの椅子に座るように言うと、黒埼は給湯室に向かった。氷水を作る為だ。  黒埼から氷水を受け取り、額に当てる。 「車で来たのか?」 「え? ……はい」 「事務所まで送って行こうか?」  そう言う黒埼をじっと見つめる。恋人の紫貴から、『黒埼とは呑み仲間』と聞いている所為だ。 「……? 朝比奈さん?」  きょとんと礼緒菜を見つめる黒埼に、小さく深呼吸した礼緒菜が意外な言葉を発した。 「黒埼検事と相原検事に相談したいことがあります」  ──と。 ゜・*:.。..。.:*・゜゜・*:.。..。.:*・゜ 紫貴 イラスト By ふぅimage=496467111.jpg
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