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黒埼と礼緒菜が公判部へと異動する。
造りは似たようなものだが、こちらは検事だけで50人以上の大所帯。当然執務室も最高5人の検事が共有している。
紫貴のいる執務室も同じく、他の検事との共有となっている。
幸か不幸か同室の検事達は、何かしらの用事で出払っていた。いるのは、紫貴と何人かの事務官のみである。
ドアがノックされた。
入って来たのは、黒埼と礼緒菜だ。
「……!」
意外な訪問者に驚く紫貴だが、すぐに部屋にいる事務官に礼緒菜と黒埼を紹介すると、静かに二人へ問い掛けた。
「……どうしました?」
「相原検事と黒埼検事に相談したいことがあります。……人払いしていただけますか?」
礼緒菜が硬い声で応えた。
弁護士が検事に相談する異様さと、礼緒菜自身の思い詰めた表情も手伝って、誰かれともなく事務官達が部屋を出ていく。
静かに見送り、3人になった。
「……で、相談って何?」
黒埼がそう言いながら、事務官がいつも座っている椅子に座る。
「その前に…
紫貴、黒埼さんって、どんな方?」
礼緒菜が紫貴の方を見て、静かに問いかける。
「礼緒菜は、半日一緒にいてどうだった?
っていうか! その額に氷水って、どうしたのっ!?」
紫貴がくすりと笑って礼緒菜を見ると、彼女のいつもと違う様子に驚いた声を上げる。
礼緒菜が苦笑いで額を突つく。
「ちょっとした事故。
黒埼さんの印象は…信頼しても良さそうな……」
「うん。口が堅いしね」
礼緒菜の言葉を肯定するように、紫貴が頷く。
礼緒菜が深呼吸して話し出した。
「……追いかけてるヤマがあるの」
「……ヤマ?」
「……どういう…?」
検事二人が礼緒菜の言葉にキョトンとする。『ヤマ』とは、事件を指す隠語だ。
「葛城礼司って検事を覚えてる?」
礼緒菜が意外な人物の名を口にした。
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