第1章

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「あ、塔馬くん。おはよう、何でもないよ」 「どうせどうやったら男らしくなれるか、とか考えてたんだろ? 諦めろって」 「塔馬くんには絶対わからない悩みなんだよ」  そういえばここに僕を七海と呼んでくれる人がいた。  鈴城塔馬くん。たくさんいる友達の中でも一番頼りになる人。  座っていなくても見上げなくちゃいけないくらい高いところにある顔は、飾り気はないけれど一つ一つのパーツがお互いを尊重し合うように綺麗に並んでいて、正直ズルイとさえ思わせる。  サッカー部、エースストライカー、高身長。  僕からすれば垂涎の肩書きを数多に携えて、その上優しくて気配りが出来る満場一致の好青年。女っぽいことを気にしてる僕を気遣ってか、塔馬くんは僕を七海と呼んでくれるのだ。 「塔馬くんも一度体験してみればいいんだよ、僕の気持ちを」  ぼそりと小さくつぶやいた。純粋な好意を持って自分が一番気にしている部分を抉られる辛さを。どうしても嫌って言えないんだよね。 「まぁまぁ、七海は七海でその可愛さで得してることもあるって。人それぞれだよ。と、いうわけで可愛い七海、宿題を見せてくれ」 「前後の文脈、まるっきり合ってないよ」  そう言いながら、僕は素直に今日提出の数学と英語のワークブックを取り出す。大事な友達は助けあわないとね。 「サンキュ。今日は例のアレの日だからな。昨日は緊張で眠れなかったんだよ」 「嘘ばっかり」  肩から下げたスポーツバッグを揺らしながら、後ろ側の自分の席に向かって歩く。  そんな姿さえカッコよく映る塔馬くんは、きっと僕の何倍も人気者だと思うんだけど。  そういえば塔馬くんにも恋人がいるなんて話、聞いたことないや。  塔馬くんも好きな人が出来たら誰かに相談したりするのかな?  そんなことを考えているとちょっと楽しいかも。  夏休みが終わっても、夏は終わらない。廊下越しに見える中庭の木々も、まだまだ力強い緑の葉をつけている。降り注ぐ日差しは半袖姿の誰かの腕を容赦なく焼き続けている。  まだ暑い日が続きそうだな、と僕は思った。  せっかく楽しみな学校が始まるのに、なんでこんな式があるんだろう?  長い長い校長の話を聞いていると、眠くなって、疲れて、やる気がなくなってしまうのに。
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