第1章

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 窓という窓を開け放っても、茹であがりそうな残暑の厳しい体育館では、壇上で熱弁を奮う校長の話なんて誰も聞いてはいない。ただ早く話が終わって解放されるのを待つばかりなのだ。休み中の部活関係の表彰に、やっぱり誰も聞いていない決まり文句の注意事項があって、すっかり背中が丸まった僕たちはやっとミストサウナから解放された。 「いつもながら我慢大会みたいだ……」  さっきまでは暑いと思っていたはずの外は、そよ風が流れていて素晴らしく心地がいい。まだ生き永らえているセミたちも思い思いに過ぎ去りつつある夏の感想を言い合っていた。  始業式が終われば、今日はもうおしまい。それぞれが好きに過ごせる半休だ。  部活に行く、残った宿題を片付ける、帰って寝る。  過ごし方はいろいろあるけれど、僕にはまだ仕事が残っていた。 「さてと、委員会に行かないと」  休み明けは各委員会の会議があるのだ。  僕は小学校からずっと図書委員。いつも人気がないのが少し悲しいけど。本に囲まれて時間が過ごせるなんて素敵だと思うのに。  このクラスでは大人気なんだけどね、図書委員。なんといっても月替わり制になってるほどだし。 「えー、それではこれより月一恒例、図書委員争奪じゃんけん大会を開催致します!」  夏休み前の七月に図書委員だった男子生徒のノリノリなアナウンスとともにクラス中から、 「うおおおおおおお」  という雄叫びが上がる。隣のクラスにも聞こえているだろうけど、きっと誰も疑問に思ってないんだろうな。  というのもこのじゃんけんの原因は僕にあって。  一年生の時の委員会決めの時、僕がいつも通り図書委員に立候補したんだけど、その時にクラス全体が図書委員に立候補しちゃったんだよね。 「ナナちゃんの隣に合法的に立てるこのチャンス、逃していいわけがない!」  という下心や、 「クラスを崩壊させてでもその地位は俺の物だ!」  という物騒な考えまで出てくる始末。  そんなわけで血で血を洗う闘争にならないように配慮した結果、月替わりでじゃんけんによる公平な委員決めが行われることになったのだ。  毎月一日に行われるこの争いは熾烈を極め、一週間ほど前になると、各所から過去の出した手の統計データや怪しい噂、あるいは八百長の裏取引があるなんていう話まで飛び交う。
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