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「熊田さんは居残りっすか?」
「あー、学生のバイト居るだろ? 来月インドに留学するからバイト辞めるとか言い出してな。新しいバイトもすぐに見つかるかどうか……」
鉛筆の先でこめかみを掻きながら、熊田さんが渋い顔をする。
「俺、シフト増やして大丈夫っすよ?」
「お前は働き過ぎだ。早く帰って寝ろ」
シッシッと子供でも追い出すかのように手をヒラヒラさせて俺を促すから。
「じゃ、お先しまーす」
エプロンを外し、熊田さんに声を掛けてから裏口を出た。
インドに留学って……。
そういやあの学生バイト君、普段から『本場のカレーがどうこう』とか言ってたっけ。
それでインドって、スゴイな、その行動力。
真っ暗闇になった夜道をぼんやり考え事をしながら歩く。
バイト先のラーメン屋から俺が借りたアパートは歩いて20分程。
とにかく家賃とバイト先との距離を重視して見つけたアパートだから、風呂は無いしトイレも共同。
何より部屋のドアが歪んでいて、鍵を掛けた筈なのにちょっと力を込めたら開いてしまうボロアパートだ。
でも銭湯もコインランドリーも近くにあるし、何も不自由は無い。
何より、誰も俺を蹂躙しない。
俺は自由になれたんだ。
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