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蠢く闇…それを率いてる父は、別人のようだった。
「はぁ……やはり貴様は適合者ではなかったんじゃな」
老婆の冷ややかな口調が僅かに耳につく。
闇の適合者?
「きさらぎの村を呑み込みおったな?」
よくわからない会話が行われる…否、老婆の一方的な物言いだ。
父はにたにたと笑んだまま、ユラユラと前後左右に揺れている。
そんな父を前にほんの少しの苛立ちを老婆は発したが、次の瞬間左右にいた鬼達に指示をする。
「村を捨てて何処かへ行け。振り返るな、決して振り返らず闇に振れずに逃げろ」
「婆さんは…どうすんだよ?」
「鬼の存続に関わる事じゃ。それに……わしが率いた村は闇の中。このまま去るには惜しい」
「……………………」
名残惜しそうに鬼達は老婆を残しまた一人また一人と去ってゆく。
残ったのは父と、そして私達を見張ってた一人の鬼と老婆。
「行け。運が良ければ太古から存在する本当の闇がこやつを処分しにやってくるだろう」
「…………人間達は?」
「最早、関係ない。放っておけ」
「もし……………アレに振れたらどうなるんですか?」
「人の創造した無じゃよ。何も残らん、形も感情も。ただ求めるだけよ、自身の名をな」
「………………名?」
「遙か昔……人はありとあらゆるモノに名を付けた。今もその名残でありとあらゆるモノに名を付ける。そうしないと恐ろしいそうだ、昔そんな事を人間から聞いた。理解できないモノを人は怖がる。だから………全てのモノに人は名を付けたがるのじゃ」
無意識に─────。
老婆はくつりと喉を鳴らす。
若い鬼はそれにジッと耳を傾けているが、二人とも視線は父に向けられていて、早口に語られる老婆の話はまるで、遺言のようであった。
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