第十五章

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「語り継いでおくれ……」 ………伝承しておくれ。 澄んだ声色が辺りによく響き渡る。 本物の物語を世に伝え、人間の良き創造を此処で膨らませておくれ。 異次元はそう言う場所じゃ。 「─────わかりました」 見当違いにも若き鬼が返事を返して、そして名残惜しそうにこの場を去っていった。 好都合だ。 「…………さて?闇よ、ほんの少しこの婆と話でもしようじゃないか。それとも話すこともできないかね?」 「……………………」 老婆と父が対峙してる、その光景を私は魅入った。 出てくこともできずにただ、魅入った。 「物語を………伝承する」 それだけの為に全て見ておこうと…そう思った。 人の想像がこの世に影響するなら、もしかしたら逃げた鬼達の先を照らせるかも知れない。 人喰いなんて呼ばせない。 鬼だけじゃない、きさらぎ駅から現実世界に還るまでに垣間見る全ての世界を良き方向へ伝承してみせる。 その為に、今、見ておかなければならなかった。 ”闇”を理解しなければならなかった。 私は今度こそ彼等異形の意思をくみ取り伝承しなければならない。 そう思ったのだ。
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