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無闇に伝承しても恐らく無意味だ。
”本物の物語”を伝承するからには本物を知らなければならない。
私はそんな思考の中、これをすることでどうなるかも理解していた。
感染者として菌をばらまくようなものだ。
恐らく私が伝承し、それを知識として認識してしまえば、この世界は容易くその者を此方へと導いてしまうことだろう。
……………この世界に足を踏み入れ、最悪狂う者が出てくる。
それでも構わなかった。
それを伝承する事が私の全てだと、図々しいながらもそんな使命感を抱いていたのだ。
「沙耶、今の内に駅に──」
ぐいっと引っ張られた腕の先には、匠がいた。
その後ろには香織が───。
「………香織ちゃん、先に行ってて」
「えっ?」
「沙耶に付き合うから、ごめんね。気を付けて駅に行って」
私の表情から何か読み取ってくれたのだろう。
匠はポンポンと私の頭を撫でて、香織を駅に向かわせようとする。
訝しげな香織の表情…。
納得いってないのが手に取るようにわかる。
香織らしいな……。
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